地下祭壇への洞窟のモチーフは欧州先史の遺跡?

地下祭壇の洞窟の様子は欧州ケルト先史の遺跡か?。

 

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アオイシロで根方の祭祀が執り行われてきた地下祭壇への洞窟内では渦巻紋様の石版がある。日本の遺跡に類似の物は見受けられないが、これに似たものが欧州の先史・石器時代の遺跡に見る事が出来る。

フランスのブルターニュ・モルビアン県海岸部に位置するガヴリニス遺跡の石版は羨道と石室に使われた石版二十九枚中、二十三枚に縞模様の紋様が施されている。盾型、半円状の物が大半で、それに斧型や蛇状曲線、杖、様式化された顔などが入り混じる。石室の天井板には、巨大な手斧と雄牛が描かれている。こうした装飾は建築当時の物と推定されるが、彩色されていたかどうかはわかっていない。なお、ブルターニュ地方はメンヒルという単一の立石が多く存在する事で知られており、現存する最大のものはプルアルゼル村のケルロアスのものであり、九.五メートルもの高さがある。ロクマリアケール村の「メンエル・ロエック(妖精の石)」は倒れて五つに割れているが、合わせると長さ二十メートル、重さ三五〇トンにも達する。卯良島では地下祭壇への洞窟の入り口や海岸の所々にメンヒルが登場するのはこういった巨石文化の遺構を参考にしたのであろう。

また、アイルランド、ダブリン近郊ボイン谷のニューグレンジ遺跡では十九メートルの羨道と十字型墓室を持つ直径八十メートルほどの円形巨大墳墓であり、建築年代が紀元前3200年(紀元前2500年頃という説もある)。ガヴリニスよりやや新しいか同時代の遺跡であり、年に一度、冬至の日に二十分だけ墓室に光が差し込む事から、太陽信仰と関係ある墳墓であるとされるが、ここの羨道、墓室の側壁にも、渦型、波型、U字型の文様がある。こうした文様はガヴリニスのもとよく似ている部分があり、文化的な交流があったという主張もある。

これらの遺跡に共通する巨大な螺旋を形作る渦巻線は死にゆく魂の旅が、中心にある玄室の中で安息と再生に至る事を示すらしいが、アオイシロではニューグレンジ入口の渦巻紋様の石に似た台座に居たヤスヒメが長寿の存在であることと関係があるのだろうか?
見た目上はガヴリニスの羨道の方がニューグレンジよりもアオイシロの地下祭壇への洞窟に似ているが、ニューグレンジにはアオイシロと関わりがあるケルト神話が伝えられている。

ニューグレンジの遺跡には真女神転生4ファイナルにも登場するケルト神話のダヌー(ダーナ)神族のダグザの住居であると伝えられている。神話ではダグザは食料の尽きる事の無い鍋を持っていたと語られており、北側の石室にある鍋型の石がダグザの鍋に擬せられ、ニューグレンジがダグザの居館とする根拠となったという。

ダヌー神族は後に侵攻してきたミレー(ミレシア)族に敗れ、地下の世界、あるいは墳丘に追いやられ、シード(妖精)へと零落していったとされる。アイルランドのシードはキリスト教化と同時期の文献で異教的神であることが述べられており、シードはキリスト教以前の神の末期的状態であるとも言われている。

こうなるとアオイシロではフォモール(フォーモリア)族のバロールをモチーフとした馬瓏琉が待ち受ける根方の祭壇は何故わざわざ敵方のダヌー神族の居館に真似ているのか理由が付かないが、恐らくフォモール族をケルト人移住以前の先住民「原ケルト人」が信仰していた存在、あるいは先住民の王と想定したからでは無いのか? カエサルの『ガリア戦記』ではガリア人(ケルト人)の神々の中でもっとも崇められている神がメルクリウスであると記されており、カエサルはガリアの神々を、属性のよく似ているローマの神々の名前で呼んでいたが、メルクリウスはケルト神話に登場するルーであると一般的には解釈されている。つまり、ダヌー神族の代表的存在であるルーは先住民に信仰されていた神では無く、元々ケルト人から信仰されていた神であり、ニューグレンジの様な墳丘がダヌー神族が零落した妖精の住処であると言うのは侵略を行ったケルト人による後世の創作であろう事が推測できる。

『侵略の書』(または『来寇の書』『侵攻の書』等とも訳されている)によれば、アイルランドではセゼール、パーポロン、ネメズ、フィル・ボルグ、ダヌー、ミレー族の順に侵略が行われ、パーポロンの時代からダヌー神族の時代までフォモール族と戦いを繰り広げ続けた。フォモール族が後世のバイキングに擬せられ、海からの侵略者の様な性格を持たされてしまうが、率直に解釈すればアイルランドの先住民であるか、先住民により信仰されていた零落した神であるのかもしれない。

バロールの一つ目は古い太陽であり、同じく太陽神的性格を持つルーに倒されるのは古くなり力を失った太陽が豊穣を約束する新しく力強い太陽と交代したと解釈もあるらしい。日本でもバロールと同じく一つ目であり、伝承によっては零落した天目一箇神が古い太陽神であるという説がある。また、卑弥呼の死は日食により力が衰えたと思われ、殺されたという説もある。(これについては最近の天文学的知見により皆既日食ではないという研究もあり疑わしいが)。

ケルト以前の先住民にダヌー神族といった概念があったとは思えず、『侵略の書』自体が十二世紀に書かれた物であり、石器時代の信仰を反映しているとは到底考えられない。キリスト教化によりケルト人が信仰していたルーやダグザ等のダヌー神族が貶められていったのと同じく、ケルト人により先住民の信仰していた神々が貶められ、それがフォモール族だったと推測していたのではないだろうか? (日本でいえば隼人に例えられる。日向の地は隼人の居住する地域であったが、同時に天孫降臨の舞台としての聖地でもある。ニューグレンジも元々はアイルランド先住民の聖地であったが、ケルト人の侵略により聖地をとって替わられたのだろう。オスマントルコによりビサンツ帝国が滅ぼされた後、教会がモスクとして利用されたのと似た様な事情であろう)

だとすればケルト以前の文様を擬せる遺跡が登場するアオイシロの設定も納得が行く。アイルランドの先住民はケルト人により滅ぼされたと言われているが、ルーが半分フォモール族の血を引いているのは先住民の信仰に対する妥協とも解釈出来る。そう言った意味ではかつては日本の国津神と似た様な存在として語られていた可能性もあるのではないだろうか。それが次第に忘れ去られ、キリスト教化やバイキングの侵入などの時勢も重なり、『侵略の書』が書かれた頃には只の魔族へと変質していったのではないかと個人的には思う。

参考文献
『ケルトの水脈』 原聖 講談社
『ミステリアス・ケルト 薄明りのヨーロッパ』 ジョン・ジャーキー 著/鶴岡真弓 訳 平凡社
『神話で訪ねる世界遺産』 監修者・藤持不三也 ナツメ社
『ガリア戦記』 カエサル著/國原吉之助訳 講談社学術文庫
『「ケルト神話」がわかる』 森瀬繚・静川龍宗 ソフトバンク文庫

おまけ

上記考察やケルト神話等を元に作製しています。もう少し詳しく触れている部分もあるので興味がございましたらご覧ください。